Quiet Corner -心を静める音楽集- Web連載 第9回
前回のコラムからすっかり間が空いてしまいました。みなさんいかがお過ごしでしょうか? 新年度になり、気持ちも新たにこのコラムを書いていこうと思います。一枚でも多く、みなさんに素敵な音楽を届けられればと。ちょうどこの原稿を書いているころ、東京は桜の満開を迎えています。めまぐるしく変わる社会の中で、こうして毎年、変わらず美しい花を咲かせるその様子を眺めていると感慨深い気持ちなります。そんなときは、ゆったりと心を穏やかなにしてくれる音楽に触れたくなるのです。
Diana Panton / Diana Panton for Quiet Corner ~ Fairy Sings Love Suite
昨年の秋に『Diana Panton for Quiet Corner』というCDを作りました。これは、カナダ出身のジャズ・ヴォーカリスト、ダイアナ・パントンの数多くの作品の中から、僕がとっておきの曲を集めたものです。僕は、彼女が2010年にデビューしたときから、ずっとファンで、いつか彼女ベスト盤を組むことが出来ればと、レーベル・オーナーの福井亮司さんに、ずっとオファーをし続けてきました。その想いがついに叶い、今回のプロジェクトに繋がりました。まさに念願、そして彼女にとっても初のベスト盤になったわけです。
彼女の魅力は、何といってもその可憐な歌声にあります。ブロッサム・ディアリーやビヴァリー・ケニーといったヴォーカリストを引き合いに出されることもありますが、優しく囁きかけるような歌い方に誰もが心を奪われるでしょう。
彼女の曲は本当にどれも素敵なのですが、今回はよりソフトでインティメイトな曲を厳選し、1枚にまとめました。「Alice In Wonderland」や「When You Wish Upon A Star」、「Moon River」といった聴き慣れたスタンダード曲も新鮮に響きます。そして軽やかなスウィング・ジャズをはじめ、艶やかなバラード、洒脱なボサノヴァ、ロマンティックなオーケストラまで、アレンジも多彩です。当初、今回の選曲ラインナップを彼女に見せたら、とても気に入ってくれて、「これは単なるベスト盤ではなく、私の新しい作品です」と、うれしいコメントを送ってくれました。またこの作品には、未発表曲「And I Love You So」(ドン・マクリーンの名曲カヴァー)も収録されています。ジャケット・デザインも草花をあしらい彼女の音楽をイメージしました。ぜひ、大切な人へのギフトにも選んで頂けると嬉しいです。
Naomi Berrill / Suite Doreams
春に聴きたい作品をもう一枚。こちらはアイルランド出身のチェリスト兼シンガーでもあるナオミ・ベリルです。クラシックを基礎に、ジャズやフォークといったエッセンスを散りばめて個性豊かな音楽を作り上げています。彼女は2017年にデビューして、今までに三枚のアルバムを発表しています。どれも素晴らしくて、本当に好きなのですが、ここでご紹介するのは2020年に録音された『Suite Dreams』で、僕が監修を手掛けたディスクガイド本『クワイエット・コーナー 2 ~日常に寄り添う音楽集』にも掲載されています。彼女の透明感のある歌声と、チェロが織りなす繊細な旋律がよく合っていて、休日のBGMなんかにぴったりだと思います。
Jamison Isaak / Cycle of the Seasons
続いては、イギリス出身の音楽家ジャミーソン・アイザックです。この『Cycle Of The Seasons』は、そのタイトルの通り、めぐる季節を描いた作品であり、日常空間にそっと溶け込むアンビエント・ミュージックでもあります。例えばブライアン・イーノといった音楽家が好きな方ならど真ん中な内容ですし、お部屋やお店で静かなヴォリュームで流したいBGMを探している方にも気に入って頂けると思います。
最近でいえば、ポスト・クラシカル~環境音楽といった呼ばれ方もしますが、いずれにしても、インテリアや家具のような佇まいを感じさせる音楽です。サウンドは電子ピアノとアコースティック・ピアノを軸に、エレクトリック・アレンジを加えたもので、淡々と繰り返される旋律にどこか懐かしい郷愁をおぼえてしまいます。まるで時間がゆっくりと流れていくような感覚でしょうか。一日の終わりに聴くと、なんだかふと涙腺が緩むような、そんな切なさも含まれています。
【プロフィール】
山本勇樹
HMV本部にて商品バイイングを担当する傍ら、ラジオやUSENの選曲、数多くのライナー・ノーツや雑誌への寄稿を行い、2014年には書籍『クワイエット・コーナー~心を静める音楽集』を刊行。過去に文具ブランドのデルフォニックスや洋服ブランドのニシカとコラボレーションを実現。また友人の吉本宏と共にbar buenos airesの活動も行う。2016年にはモントルージャズ・フェスティバル50周年の公式リポートを担当した。2020年12月に韓国にてクワイエット・コーナーの新刊を出版。2021年8月には、7年ぶりの新刊『クワイエット・コーナー 2~日常に寄り添う音楽集』を刊行。
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