“Polka Dots and Moonbeams”は、ジョニー・バーク（1908～1964）作詞、ジミー・ヴァン・ヒューゼン（1913～1990）作曲により、フランク・シナトラが1940年に歌いヒットさせた、有名なジャズ・スタンダード曲のひとつです。その後、多くのジャズ・ミュージシャンたちがこの曲を取り上げていて、そのカヴァー・ヴァージョンの数は枚挙にいとまがありません。曲名は直訳すると“水玉模様と月の光”。歌詞の一部を抜粋すると、ある晩のダンスパーティーで出会った、水玉模様のドレスを着た女の子に一目惚れする内容で、月の光はその彼女の美しさに例えられています。何ともロマンティックで愛らしい歌です。

そんな数あるヴォーカル曲の中で最も素敵だと思うのが、ステイシー・ケントがアルバム『Dreamsville』（2000年）に吹き込んだヴァージョン。彼女はこういうスウィートなバラードを歌うのが得意です。そして、インストゥルメンタル曲の中では、なんといっても、ビル・エヴァンスによる演奏が最高に美しいです。エヴァンスは様々なアレンジでこの曲を録音していますが、1962年にチャック・イスラエル（ベース）、ポール・モチアン（ドラムス）と共に、第二期トリオ時代に録音した『Moon Beams』に収録されたヴァージョンが名演なので、ぜひ機会があれば聴いてみてください。

さて、前置きが長くなりましたが、『Quiet Corner – Polka Dots and Moonbeams』は、夏の夕暮れの風景や、深い夜の時間帯のBGMにも似合うような、ロマンティックでインティメイトなジャズ・バラードが集められた作品です。残念ながら、先ほど紹介した2曲は権利の関係で収録できませんでしたが、タイトル曲には、マーク・シャーマン（ヴィブラフォン）とハンク・ジョーンズ（ピアノ）が名門チェスキー・レコーズに残した、とっておきのカヴァー・ヴァージョンを選んでいます。まさにきらめく星屑を描いたような素晴らしいデュオ演奏で、目を閉じて耳を傾けていると、月明かりに照らされて、ひらひらと揺れる水玉模様のドレスのワンシーンが思い浮かんできます。