Quiet Corner -心を静める音楽集- Web連載 第4回
長い連休も終わり、立夏も過ぎ、すっかり初夏の陽気です。梅雨が訪れる前に、どこかへお出掛けしたい気分ですが、まだまだそんな雰囲気ではなさそうです。とはいっても、こういう機会だからこそ楽しめる事は何かないかと、ここ数日、僕はレコードを磨いてクリーニングしたり、オーディオ機器のメンテナンスをしたりして、ささやかな趣味に勤しんでいました。
Livia Nestrovski e Arthur Nestrovski / Sarabanda
ということで今回は、初夏に聴きたい“音が心地いい(音質が良い)”作品を選んでみました。ただ、“音の良さ”とは、とても主観的なものでございます。人それぞれ、料理の味の好みが異なるように、音の好みも異なります。でも、ここで紹介するのは、ピアノやギターがナチュラルに響いたり、ヴォーカルの細やかな息づかいを感じたり、肌触りのいいハンカチやタオルのように毎日使っても飽きないものばかりです。きっと日常に寄り添う音楽を探している方には気に入って頂けるはずです。そして、お部屋の小さなコンポやBluetoothスピーカーでも、充分にその魅力は伝わるのではと思います。
アルチュール・ネストロフスキーとリヴィア・ネストロフスキーは、ギタリストとヴォーカリストで、ブラジル人の親子です。この『サラバンダ』は、バッハ、シューマン、シューベルトのクラシック小曲にポルトガル語の歌詞を付けたアルバムです。ギターが柔らかに紡ぐサンバとボサノヴァのリズムに、清涼感あふれる歌声は、穏やかな午後のBGMにもぴったりの内容です。欧州クラシックとブラジル音楽の洗練された要素がうまく溶け合っています。二人の温かなデュエットも聴けます。
Melody Gardot / Sunset in the Blue
Sachal Vasandani / Midnight Shelter
メロディ・ガルドーはアメリカのジャズ・ヴォーカリストです。彼女の魅力は何と言っても、その歌声です。まるで息を吐くように、ささやく歌は、さながら女性版ジョアン・ジルベルトといったところでしょうか。言葉の一つ一つを丁寧に、詩を詠むように歌います。プロデューサーはジョニ・ミッチェルなど数多くの名作を手掛けたラリー・クライン。そして録音エンジニアはつい先日、訃報が届けられた名匠アル・シュミット。内容は全編にわたりジャズ、ボサノヴァ、ファドなど、美しい風景が似合う、まろやかで芳醇な音楽が散りばめられています。メロウで甘い雰囲気に包まれながら、夕暮れ時に聴きたくなります。
最後は深い夜の時間が似合う音楽を紹介しましょう。サシャル・ヴァサンダーニはアメリカの男性ジャズ・ヴォーカリストです。チェット・ベイカーを彷彿させるソフト・ヴォイスがやはり魅力的ですが、その歌にそっと寄り添うローマン・コリンのピアノもまた格別です。これは歌とピアノだけのデュオ・アルバムで、そのパーソナルな空気感が心の奥にじんわりと染みわたります。収録曲は、オリジナル曲と、ボブ・ディラン、ビートルズ、ニック・ドレイクといったカヴァー曲で構成されています。ほのかに漂うロマンティシズムの香り。切なく繊細な陰影美を映しだす、歌とピアノで紡がれた、まさに『ミッドナイト・シェルター』というタイトルに相応しい、真夜中の新たなスタンダードがここにあります。
実は最近、「Bang & Olufsen」のワイヤレスのポータブルスピーカー「Beosound A1」を手に入れて、よく聴いているのですが、これがクワイエット・コーナーの音楽と相性がいいのです。アコースティックなサウンドに適したナチュラルな音色で、低音から高音までの全域のバランスもよく、ここで紹介したようなジャズ・ヴォーカルやボサノヴァを、きれいに鳴らしてくれます。筐体もコンパクトで、デザインもシンプルなので、インテリア性も高いです。この小さな形から、こんなに豊かな音が出るなんて驚きを隠せません。またブルートゥースで繋げば、どんな場所でも音楽を楽しむことができるので、一度使えば、手放せなくなりそうです。もちろん、ハイスペックなので、解像度の高さや数値的な理論は申し分ありませんが、やはり「Bang & Olufsen」というブランドが長年培ってきた経験と技術、さらには純粋に音楽を楽しむための美学がここに詰まっていると感じました。ぜひ、機会があれば聴いてみてください。
【プロフィール】
山本勇樹
HMV本部にて商品バイイングを担当する傍ら、ラジオやUSENの選曲、数多くのライナー・ノーツや雑誌への寄稿を行い、2014年には書籍『クワイエット・コーナー~心を静める音楽集』を刊行。過去に文具ブランドのデルフォニックスや洋服ブランドのニシカとコラボレーションを実現。また友人の吉本宏と共にbar buenos airesの活動も行う。2016年にはモントルージャズ・フェスティバル50周年の公式リポートを担当した。2020年12月に韓国にてクワイエット・コーナーの新刊を出版。
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