アトラクト

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空と転車台

空と転車台 Web連載 第1回

荒川修作さんと高知 天寿全うの福祉都市を

1950年代から精力的に創作活動を展開し60年代に渡米。絵画、体験型立体作品、建築へと場を広げていった世界的アーティスト、荒川修作さん(1936年名古屋市生まれ)。近年は岐阜のテーマパーク「養老天命反転地」、東京の「三鷹天命反転住宅」の企画・設計で知られる。「三鷹―」は華やかな色彩で、球体、円筒、立方体などが組み合わさった建物。球形の部屋があったり、床はすり鉢状だったり。その場にいると、さまざまな神経が刺激される―。多くのメディアでも取り上げられ、人々の興味を呼ぶ。

その荒川さん。実は2000年以降、高知県内に高齢者福祉と資源循環を実現する自立型コミュニティーをつくろうと何度も来高。斬新なプランを描いていた。

なぜ高知に?
荒川さん来高の都度同行していた記者として、その周辺を記したい。
荒川さんは、高知が大好きな知人に連れられ本県に。私は、取材を通じて荒川さんを知る。帰米後、私あてに荒川さんからファクスが来た。そこには「福祉を中心とした日本では初めての新しいコミュニティを高知に建設すれば、必ず高知の活性化になると思いますよ!」と書かれ、コミュニティーの名称について「天国土佐不老住居若人村遊飛」はどうかと記してあった。
このあたりのことを高知新聞のコラム「話題」に書く。すると須崎市長から「荒川さんを紹介してほしい」と依頼がきた。

市長は大規模年金保養基地「グリーンピア土佐横浪」の利活用を考えていた。そこに荒川さんのプランを持ってこれないかと思ったのだ。市長の意向を伝えると、荒川さんはすぐに高知を再訪。横浪半島、浦ノ内湾周辺を巡り、「素晴らしい場所だ」と高評価した。

そうして、次のような提案をする。
 ①日本初のまったく新しい天寿を全うできるリゾート型福祉都市
 ②四国88か所めぐりから未来への巡礼地として89番目にあたる山(道草霊場)
 ③若者も老人も外国からの訪問客も長期滞在できる哲学のある多面性をもつテーマパーク
 ④自然とともに身体を使ってのセラピー、リハビリテーションを実施できる施設
 総合的には、これらを目標とし、まずケアハウスのモデルをつくろうという。

荒川修作+マドリン・ギンズ《高知県須崎市計画全体図》 2004

荒川修作+マドリン・ギンズ《高知県須崎市計画全体図》 2004
© 2020 Reversible Destiny Foundation. Reproduced with permission of the Reversible Destiny Foundation

荒川さんが来高したうちの、ある時はエネルギーシステム工学の専門家も同行した。水素エネルギーに着目し、資源循環型社会システムを提唱する人物。

2004年の季刊誌「分」で、その人、芝浦工大先端工学研究機構客員教授(当時)の平田賢氏は、荒川さんと対談し次のように話している。

「須崎市のコミュニティー建設において、私は下回り、つまりエネルギーの供給について検討しているわけですが、基本は今まで述べてきた分散型エネルギーシステムを導入することです。もうひとつの大きなテーマがこのシステムの中に下水やゴミなど、従来個人で処理することのなかった家庭から出る廃棄物を処理してエネルギーとして活用するシステムを組み込むことです。下水から出るバイオガス(メタン)を燃料電池の燃料として発電するのです。燃料電池は、水素と酸素を電気化学的に反応させて水とともに電気を取り出すシステムですが、排ガスが極めてクリーンで、発電効率も高い。(中略)各家庭で太陽や風力で作った不安定な電力を用いてポリマーの膜で水を水素と酸素に分解し、水素を貯めておく。須崎のコミュニティーでは、この水素とバイオガスがエネルギーの中心になります。つまり、エネルギーが循環するコミュニティーなのです」

荒川さんは、元「グリーンピア土佐横浪」周辺のCGドローイングを描いている。「三鷹天命反転住宅」の原型のような建物が、地形に逆らうことなく連なっていく。道路もまた、自然を壊さずに家々をつなぐ。そして、まちは水素エネルギーを活用した循環型システムで支えられている。

20年前、「世界のアラカワ」が提案した地域活性化モデルとしてのプロジェクト。荒川さんは2010年5月、73歳で亡くなった。プロジェクトは実現に至っていない。

荒川修作さんの著作や関連する書物

荒川修作さんの著作や関連する書物

【空と転車台】
JRが国鉄と言われていたころ、高知駅や須崎駅など主要な駅には「転車台」があった。構内の引き込み線の隅の方にあって円形で、そこに蒸気機関車などを載せて方向転換。機関車はこれまでと違う線路に入って客車と連結、新たな駅へと牽引していく。「空」は晴天、雨、曇り…。日によってさまざまな表情を見せる。

そんな「転車台」と「空」と並置して、連載のタイトルにした。その時々で書く内容が変わることの比喩として。あまり接点のない二つだけど、絵を想像した。すると、「転車台」は「空」に抜けた。パラソルを差した女性の、モネの絵のようにー。これからしばらくお付き合いお願いします。

【プロフィール】
浜田 茂
1958年須崎市生まれ。元高知新聞記者。編集部長、学芸部長、編集局次長兼編集委員室長、編集センター長など歴任。著書に「土佐の民家」(共著)。

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浜田 茂

1958年須崎市生まれ。元高知新聞記者。編集部長、学芸部長、編集局次長兼編集委員室長、編集センター長など歴任。著書に「土佐の民家」(共著)。